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2022.08.18

<コラム>【一蓮托生】Vol.2

地域観光/10年後の未来予想図②

10年で20%減「年々廃業や閉鎖が増える地方のホテル旅館の戦慄」

 

 

~人口減少が意味するもの~

 

8月9日に総務省より発表された日本の人口は、前年比▲62万人の1億2,300万人と、2009年以降13年連続の人口減少となった統計が出された。これらを見てもわかるように、今後国内の観光マーケットは間違いなく縮小する。

 

<国内マーケット縮小による競争激化がもたらす負の連鎖>
→競争激化による利益率の低下
→大規模資本による大型新築ホテルの投入(更なる競争激化)
→金利上昇による収益の更なる圧迫
→人件費、水道光熱費の高騰による変動費の高騰
→結果、経営の悪化(債務超過)→閉鎖・廃業・倒産軒数増加

 

さらに長期的な視点で影を落とすのが政府支援策である。
国や自治体はコロナによる苦境に立たされている観光業を支援したいとの考えから、税金を投入し需要の喚起策を講じている。これらは短期的には良いが、長い目で見れば、政府支援策は一時的(短期的)なカンフル剤に過ぎない。

 

2020年のGOTOトラベルキャンペーンにより空前の政府補填で潤った事業者が多くあった。さらに2020年12月から始まった行動制限による国のキャンセル料補填(保証)このような補填金は一時的にはありがたいが、運営者サイドから言えば自力を失ってしまい兼ねない。今まさに観光業界はこのGOTOの再開を待ち望んでいる状況に恐怖さえ覚えてしまう。(困ったときの国(政府)頼み)

 

これでは観光業(特に地方のホテル旅館)は強くならない。
自力をつけなければ長期的に生存できない。

 

 

~地方のホテル旅館激減の内的要因とは~

地方のホテル旅館について言うと、2006年統計で約5.5万軒が、直近のデータでは4万軒を大きく下回っているのが実情である。10年で▲27%と驚愕のデータである。

 

今後地方のホテル旅館は、減少の一途を辿ることは火を見るよりも明らかです。

 

国内需要の減少→ホテル旅館の廃業→地方の雇用減、過疎化の進行(悪循環)

 

また、ホテル旅館の経営に持続力が無いのはなぜか?
突き詰めて考えてみると、私なりの1つの結論が出てくる。

 

それはこの業界の世襲制にあると考えます。(株主が同族や親族のみの家族経営)

 

いわばオーナー(株主)と経営が同一である点。
意思決定が早い分、間違った判断にも抑止が効かない。またオーナー(株主)の都合だけで経営判断を下すことが出来る。世代交代が進まず、後継者育成という視点が欠如している。さらに後継者は適正があろうが無かろうが、ほぼ子供に引き継がれる。
私はそんなホテル経営者を嫌というほど見てきた。
ゼロから創業した経営者と、既にある経営を引き継いだ経営者では、危機意識と情熱が違いすぎる。

 

家族経営ながら負債を減らし事業を拡大できている株式会社星野リゾートのビジネスモデルは、国内唯一の存在だと思う。
彼らは星野家の家族経営ながら、独自のリート投資法人を立ち上げ、運営だけでなく、星野家の保有ホテルをリートに売却するなど、ホテル運営以外でも利益を得ている。これはメディア戦略に長けた経営者の手腕でもあると思う。
1つ疑問を持たれる方もいるかもしれないので私見で申し上げると「なぜ星野リゾートは、会社を東証に上場せず、リート法人として上場しているのか?」

 

私なりの結論は、「家族経営」を維持するためである。(世襲制への固執やこだわり?)
会社を絶対に他には譲らないという意思表示だろうが、これも一つの戦略である。

 

 

~借金地獄の負のスパイラル~
過去に目を向けると、戦後の昭和23年7月に制定された「旅館業法」により、地方の名士や、実業家が、「国内の余暇環境を整備したい」という信念の下、ホテル旅館の経営をスタートされ、これまで多くの方に素晴らしい余暇を提供してこられた。
一方、経営者は個人の方が多く、自らの土地建物を担保に入れ、金融機関から多額の借金の上に経営が持続されている。この借金が返せなくなると、倒産、閉業、事業譲渡の選択肢を迫られる。(過剰に融資した地方の金融機関の責任も重い!)

 

しかしこれは、昭和の高度経済成長に伴う人口増加があったからである。現在のように人口が増えない今、供給だけが増えれば、間違いなくコモディティ化し、価格競争により淘汰されるのは火を見るよりも明らかである。

 

現在の地方の旅館ホテルは、大型スーパー登場で小売り商店が苦戦し、結果、価値ある商店街が廃れていくのにも似ている気がする。

 

今後10年間で個人経営されているホテル旅館の20%程度は廃業になる可能性が高い。果たしてこれで良いのだろうか?

 

しかしながら私たちは、日本では数少ない東証プライムの上場企業体として、この社会問題にどう立ち向かわなくてはならないのか?今は日々苦悩する日々である。

 

令和4年8月18日
田村佳克

 

 

次号:自治体や旅館組合がなすべき役割とは何か?

 

●過去のコラムはこちら

【一蓮托生】Vol.1 地域観光/10年後の未来予想図① 序章~思想なきマネーに翻弄~