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2022.09.01

<コラム>【一蓮托生】Vol.3

自治体や旅館組合がなすべき役割とは何か? ~現状の課題編~

 

私が旅館ホテルの再生活動をはじめ、数年が経過したころ“ある事象”に驚かされた。
さかのぼること7年前、私は栃木県の川治温泉の再生案件の相談を受け、現地に赴いた。途中の鬼怒川温泉あたりを車で通過したころ、風情ある鬼怒川の川沿いに数多くの廃墟が残っていた。心霊スポットとして狙って放置しているならいざ知らず、それは完全に不良債権化したホテルや旅館が廃墟と化している。
現在の鬼怒川を一言で表現するなら「新興ホテルと廃墟が同居する温泉地」である。
こんな温泉地が発展するはずもない。

 

日光鬼怒川は、風光明媚な景観と東照宮などの観光資源がある日本有数の観光地である。にもかかわらず、栃木県などの自治体はこの状況を実質放置している。
様々な事情はあるのだろうが、県が主体となって解決するしか方法はない。

 

これらの廃墟になっている施設の債権者までは調査していないが、この状況は自治体(特に栃木県)が当事者意識をもって対応するのが筋である。なぜなら過去にこの廃墟となったホテルの建築許可を出したのはだれでもない栃木県であるからだ。また旅館業、消防などの適合通知を出したのも言わずもがなである。
ならばその責任を負うのが筋ではないか?と個人的には思う。

 

帰り道は、そんな空虚感と寂しさで宇都宮駅に着く途中に、驚きの光景を目にした。
なんと宇都宮の一等地にそびえる栃木県庁。都心のタワーマンションを思わせるご立派な建物である。直観的に出てきた感情は、「そんな予算があるならなぜ鬼怒川、川治エリアを整備しないのか?」

 

話は変わるが温泉地には必ずと言ってよいが●●旅館組合や、〇〇温泉組合なるものが存在する。私から言わせればこれらは諸悪の根源である。この組織に新たなマーケット創出するPRなどできる余地はない。
5年前某温泉地旅館の再生をスタートする際、地元組合から加入を進められた。その際、組合長なる方にご挨拶をした際、「月額8万円の組合費払い会員になれ」と強引に勧誘された。私が少し躊躇した表情をしたところ、彼から出てきた言葉に耳を疑った。
「組合に入らないと、地域での各種情報を寸断されることになる」と・・・。

 

まさに脅しとも取れる高圧的な言葉であった。

 

この状況に私が組合長に質問をした。
「ちなみにこの集められた組合費はどのように使われているのでしょうか?」

 

彼らから返ってきた言葉は、「組合員の親睦を深めるため、他の温泉地の視察費に使う」結論私はこの組合への入会を断った。温泉地の視察?ただの組合旅行でしかない。

 

地域をPRする目的で、各種旅館が集い知恵を絞り観光客を呼び込むことがミッションにも関わらず、ほとんどのケースでそのようなお金の使い方はなされない。多くは組合員の親睦だの、視察旅行だの自分たちが楽しい部分にお金は消えている。

 

だから地方の旅館はダメになると、心の底からそう思った出来事だった。
(名誉のため当該地域は非公開)

 

もちろん全国の組合がすべてそうとは言わないが、大抵の組合長が60歳を超えていることもこの状況に拍車をかけている可能性がある。
偏見かもしれないが60歳を超えた高齢者で構成される組合では、地域活性化は不可能である。パソコンやスマホすら使いこなせないし、イノベーションの意欲など沸いてくるとは思えない。
失礼を承知で言うが、所謂この世代は、アナログ世代であり、現在のデジタル世代のSNS(インスタグラム)など扱えるはずがない。相も変わらず、花火大会やお祭りなど恒例行事の手法に頼るしか道はない。その後の“お疲れさん会”で飲み食いするのが関の山である。

 

自治体や旅館等の組合が変わらなければ、日本の観光に未来はない。
今の観光地には、自治体、事業者が一蓮托生で課題解決に挑む覚悟が必要なのではないだろうか?

 

 

令和4年9月1日

田村佳克

 

●過去のコラムはこちら

【一蓮托生】Vol.1 地域観光/10年後の未来予想図① 序章~思想なきマネーに翻弄~

【一蓮托生】Vol.2 地域観光/10年後の未来予想図② 10年で20%減「年々廃業や閉鎖が増える地方のホテル旅館の戦慄」