代表コラム
2026.05.14
<コラム>【一蓮托生】Vol.91 ホテル旅館運営における安全対策の重要性
〜レジオネラ・食中毒・防災 三つの「命を守る責務」〜
「お客様の命をお預かりしている」——私がこの言葉を初めて口にしたのは、まだホテル事業を立ち上げたばかりの頃のことだった。当時は勢いで突き進んでいたかもしれないが、施設数が増えるほどに、この言葉と意義の重要性が日増しに高まってきている。
観光は「非日常の体験」を提供する産業である。しかしその非日常を支える土台は、徹底した「日常の安全管理」でなければならない。
以前にも本コラムで触れたが、今号では私たちホテル旅館運営者が決して怠ることのできない三つの安全対策
——レジオネラ症対応、食中毒対応、そして防災対応——について、改めて率直な思いを綴りたい。
特に温泉旅館は高齢者の利用も多く、免疫や抵抗力また災害時の移動スピードも考慮しなければならない。
1.レジオネラ症対応 〜見えない敵と向き合う覚悟〜
温泉・大浴場を持つ旅館にとって、レジオネラ菌は「経営の死角」になりやすい脅威である。
土壌や河川に自然界から広く存在するレジオネラ属菌は、36℃前後の温度帯で爆発的に繁殖し、循環式浴槽やジャグジーのエアロゾルを介して人の肺に到達する。
適切な治療が間に合わなければ、死に至る可能性がある恐ろしい属菌である。
問題は、見た目はきれいでも菌は潜んでおり、実際過去には老舗温泉旅館でレジオネラ菌が検出された事例で、
施設側が「条例のルールを知らなかった」という声が報じられていた。これは言い訳にならない。
法令の不知は違法性を阻却しないし、何よりお客様(特に高齢者の方)の命を危険にさらしてしまう。
<私たちが取り組む具体的対策>
◆ 塩素濃度管理の徹底
浴槽水の遊離残留塩素濃度は0.4mg/L程度を常に維持。厚労省の改正基準に準拠し、単なる数値記録にとどまらず、実態として確保できているかを確認する。
さらに当社のホテルや旅館の塩素濃度をデジタルで一括可視化できる仕組みも導入し、本社側で異常値が出ればタイムリーに是正が可能である。
◆ 換水・清掃サイクルの厳守
循環式浴槽は週1回以上の換水と徹底清掃。配管・ろ過装置・集毛器・気泡発生装置に至るまでバイオフィルムの除去を定期的に実施する。
◆ 定期水質検査の実施
連日使用型循環浴槽水は毎月1回程度のレジオネラ属菌検査を実施し、記録を保管する。
◆ 管理記録の可視化
清掃・消毒・塩素濃度測定の結果を時刻・数値とともにデジタルで一括管理する仕組みを導入。
2.食中毒対応 〜厨房の先に命がある〜
当社が全国45か所以上にホテル・旅館を展開する中で、食の安全管理は創業期からの最優先としてきた課題でもある。
私たちは施設数がまだ4拠点しかなかった頃から、専門の食品衛生管理機関(町田予防衛生研究所様)とパートナーシップを結び、衛生管理マニュアルを共同で整備してきた。「お客様に快適な空間をご提供することも大切だが、何よりも安全が第一」——この思いは私をはじめ全社員が共有する不変の哲学でもある。
食中毒は、ひとたび発生すれば施設の信頼を一瞬で崩壊させる。そして何より、お客様の健康と命に直結する。
だからこそ料理人の目だけに頼らず、本社によるバックアップサポートが不可欠だととらえ本社と現場の連携を強化している。
< 食の安全を守る多層防衛>
◆ 自主管理認証制度への対応
速やかに認証を取得し、継続的な遵守を徹底。外部評価の視点を常に取り入れることで、内部の慣れによる緩みを防ぐ。
◆ 本社による衛生チェック体制
各施設の厨房任せにせず、本社が横断的に衛生状況をモニタリング。定期的な衛生巡回と改善指導を実施する。
◆ 食材トレーサビリティの確保
地方の地産地消食材を積極活用する一方で、仕入れ先の衛生状況・保管温度・納品記録を徹底管理する。
◆ スタッフの衛生教育
調理スタッフはもちろん、配膳・清掃スタッフも含めた全員への衛生研修を年次で実施。アレルゲン対応も含めた知識の底上げを図る。
◆ 有事の際の初動対応訓練
食中毒疑い事例が発生した際の保健所への報告、メニュー提供停止、原因特定のための検食・記録保管など、初動マニュアルを整備し定期訓練を行う。
3.防災対応 〜非日常の場所で、非常時に備える〜
日本は世界でも有数の地震・水害・火災リスクを抱える国である。
地方の山間部、海沿い、温泉地——当社の施設が立地するエリアは、それぞれに固有のリスクがある。
「いざというとき」を考えない経営者は、お客様の命を軽んじているのと同じだと私は思っている。
<私たちが整備する防災体制>
◆ 施設別リスクマップの整備
各施設が立地するエリアの地震・津波・洪水・土砂災害リスクを把握し、ハザードマップに基づく避難計画を策定・掲示する。
◆ 避難訓練の定期実施
宿泊客を含めた想定での避難訓練を年2回以上実施。夜間帯を想定したシナリオを含め、スタッフが自律的に動ける体制を構築する。
◆ 防災設備の点検と更新
消火設備・非常灯・スプリンクラー・避難誘導板の定期点検を法定基準以上の頻度で実施。
老朽化施設を活かす「再生」ビジネスモデルゆえ、設備更新への投資を惜しまない姿勢が求められる。
◆ 外国語対応の強化
インバウンド需要の拡大に伴い、避難誘導・災害情報の多言語対応を進める。
英語・中国語・韓国語での案内板整備と、スタッフの基礎コミュニケーション訓練を推進する。
◆ BCP(事業継続計画)の策定
災害発生後の宿泊客への対応、関係機関との連携、従業員の安全確保、施設の早期復旧に向けた計画を文書化し、グループ全体で共有する。
おわりに
レジオネラ対応、食中毒対応、防災対応——これら三つは、ともすれば「コスト」として捉えられがちだが、これは大きな間違いである。安全とは、最も崇高なホスピタリティともいえる。
「お客様に素晴らしい時間を提供したい」——その思いの根底にあるのは、「お客様に安全で無事にご自宅に帰っていただきたい」という願いが前提条件となる。
温泉に入り、旬の料理を楽しみ、非日常の景色に癒されたお客様が、翌朝笑顔でチェックアウトしていく。
その姿を守るために、私たちは「見えない努力」を積み重ねなければならない。
今後も、当社は従業員および関係各所との連携を深め、さらなる安全対策を進化させていきたい。
(生まれは舞鶴市)
他
※小さな力でも数が集まれば大義を為せる
