代表コラム

2026.06.04

<コラム>【一蓮托生】Vol.92 地方ホテル・旅館の三重苦——コスト高騰・人手不足・後継者不在を乗り越えるために

はじめに


石油化学の基礎原料であるナフサの価格高騰が止まらない。これに伴う資材・備品の仕入れコスト上昇は、製造業にとどまらず、アメニティ・清掃用品・食材パッケージにいたるまでホテル旅館業全体に影響を及ぼしている。
加えて、慢性的な人手不足と後継者不在——。この三つの重荷を同時に背負う地方の宿泊施設は今、かつてないほど厳しい岐路に立たされている。
しかし、私はこれを「危機」だとだけとらえてはいない。課題が明確であるということは、解決策を講じれば必ず光が見える、ということでもある。今回は、この「三重苦」を整理し、そこに向き合うための処方箋を探っていきたい。

 

 

 

第1の苦 物価高騰——コストの壁をどう突き破るか


■ ナフサ起点のコスト連鎖
ナフサは石油化学製品の源流であり、プラスチック・合成繊維・洗剤・包装材など、日常の「あらゆるもの」の原材料となる。その価格変動は川下の消費財全体に波及し、ホテル旅館が調達するアメニティ・客室備品・清掃資材・食材容器などに直撃する。
さらに物流コストの上昇も追い打ちをかける。宅配便・トラック輸送の2024年問題(ドライバーの時間外労働規制)に伴うコスト転嫁は、地方の施設ほど大きく響く。

 

 

■ 処方箋① 「調達の共同化」と「代替品への転換」
個々の施設が単独で価格交渉するには限界がある。まず取り組むべきは、近隣施設や業界団体、あるいは運営会社グループとの共同購買による交渉力の強化だ。

 

当社グループでは約60施設の一括調達を実施することで、単館交渉では得られない価格メリットを享受している。施設規模にかかわらず、複数施設が連帯することで同様の効果が生まれる。加えて、アメニティの全廃・ミニマル化(必要な方に個別提供するオンデマンド方式)は、コスト削減と環境負荷低減を同時に実現する。すでに欧米のホテルでは標準化されており、日本でも先進的施設から導入が始まっている。
さらに踏み込めば、地産地消の調達構造への転換も有効だ。地域の農家・食品加工業者との直接取引は、輸送コストを削減し、地域経済への還元にもなる。「地方ならではの強み」をコスト構造にも活かす発想が求められる。

 

 

 

第2の苦 人手不足——「少ない人員でも回る」仕組みをつくる


■ 人手不足の構造的背景
宿泊業・飲食サービス業の平均賃金は全産業で最も低い水準にある。有給休暇取得率もワーストクラスである。この現実が若年層の「観光業離れ」を加速させ、慢性的な人手不足の温床となっている。コロナ禍で業界を離れた人材の多くはいまだ戻っておらず、インバウンド急回復による需要増が、供給側の人員不足と深刻なミスマッチを生んでいる。

 

 

■ 処方箋② DXによる業務効率化と「選ばれる職場」へのシフト
まず断言したいのは、「今のオペレーションのまま人を増やす」という発想には限界があるということ。ホテル旅館業は「30年以上生産性が向上していない」と言われる産業である。まず業務の棚卸しをおこない、デジタルで代替できるプロセスを可視化することが第一歩だと考える。

 

具体的には次のような取り組みが挙げられる。

 

① チェックイン・チェックアウトのセルフ化(無人フロント化)による受付業務の省人化
② 予約・客室管理システム(PMS)とOTA在庫管理の一元化で、バックオフィス工数を大幅削減
③ 清掃業務のシフト最適化(AIスケジューリング)で、限られた人員を効率的に配置
④ 多言語対応AIチャットボットの導入により、問い合わせ対応の負荷を軽減

 

 

一方、採用力の強化には「選ばれる職場づくり」が不可欠だ。観光業の魅力——「お客様の喜びが直接感じられる仕事」「地域と深くつながる働き方」「多彩なキャリアパス」——をきちんと発信できているか、今一度問い直してほしい。
当社では「健康経営優良企業」に4年連続で認定されているが、これは「継続的な改善姿勢」の結果であり、宿泊業でも実現できる証左だと考えている。

 

 

 

第3の苦 後継者不在——「廃業」か「再生」か、その選択


■ 経営者の高齢化と承継の空白
帝国データバンクの調査によると、宿泊業の経営者の平均年齢は60代を超えており、後継者が「いない・未定」と回答する事業者は年々増加している。何十年もかけて地域に根付いてきた宿が、後継者不在のまま廃業に至るケースが後を絶たない。

 

 

これは個々の経営者の問題にとどまらない。地方の宿が消えることは、観光資源の喪失であり、地域雇用の喪失であり、地域文化の喪失でもある。

 

 

■ 処方箋③ 「承継の選択肢」を広げ、プロに任せる勇気を
後継者問題の解決策は、「息子・娘に継がせる」だけではない。以下のように、選択肢は複数存在する。

 

 

① M&A・第三者承継:後継者不在でも、施設・ブランド・雇用を守りながら事業を存続させる手段として有効。近年は観光業専門のM&A仲介業者も増えており、相談しやすい環境が整いつつある。
② 運営委託・フランチャイズ:所有権を維持しながら経営をプロに委ねる「オーナー+運営会社」モデル。当社グループが展開するホテル総合支援サービスも、この文脈から生まれたものだ。「赤字ホテルを90日で黒字化する」実績を積み重ねてきた経験を、まさにここで活かせる。
③ 地域連携モデル:地元自治体・観光協会・他の宿泊施設と連携し、共同体として地域の宿を守る仕組みを構築する。一施設では成し得ない課題も、集まることで解決できる可能性が広がる。まさに私の座右の銘「群軽折軸(ぐんけいせつじく)」の精神だ。

 

 

廃業を決断する前に、まず相談することを強く勧めたい。一歩踏み出す勇気が、地域の宝を守ることにつながる。

 

 

 

三重苦の本質——「個の限界」と「連携の可能性」


この三つの課題に共通するのは、「一施設・一経営者だけで抱えてはいけない問題である」という点だ。

 

物価高騰は「共同調達」で、人手不足は「DXと外部委託」で、後継者問題は「第三者承継や運営委託」で解決の糸口が見える。いずれも、「外に開く」ことでしか突破できない課題なのだ。

 

一方で、危機のなかにこそ機会がある。物価高を乗り越えた施設は競争力が増し、DXで生産性を上げた施設は収益体質が強くなり、承継を乗り越えた施設は次の100年を生き抜く基盤を得る。

 

地方の宿が消えれば、地域の灯が消える。私たちはこの産業に関わる者として、この現実から目を背けてはならない。

 

 

 

おわりに


私の願いは、「持続可能な観光産業の発展」に他ならない。全国各地の地方ホテル・旅館が、三重苦を乗り越え、地域とともに輝き続けること——これがリロバケーションズグループのミッションの根幹でもある。

 

 

現場を知らないコンサルティングでは意味がない。私たちは自社で約60施設を運営する「当事者」として、課題解決の道を共に歩む覚悟がある。

 

 

地方から日本を元気にしたい。日本の魅力は地方にあり。

 

 

この思いに共感いただける施設オーナー様・経営者様は、ぜひ一度、当社へのご相談をお寄せいただきたい。

■プロフィール■
氏名 
田村佳克 1973年生まれ
出身地 
京都府
(生まれは舞鶴市)
趣味 
ゴルフ、RUN、読書、ピラティス
 他
特技・特徴
早寝早起き ・ 体の柔軟性
座右の銘 
群軽折軸(ぐんけいせつじく)

※小さな力でも数が集まれば大義を為せる